8月末にオーストリア・グラーツのSt. Martin城という場所で行われた合唱指揮講習会に参加していました。
この講習会は私の大学での指導教授であるJohannes Prinz(ヨハネス・プリンツ)氏が毎年8月に開催しているものなのですが、毎年2人の合唱指揮者が講師として呼ばれ、Prinz氏を含む3名の講師の元で100人近い参加者が合唱を歌い、合唱指揮を学びます。
参加者は合唱に興味がある10代の若者から、音大生、アマチュア合唱団の指導者、生まれて初めて合唱団の前に立つ、という方まで実に様々ですが、100名全員が多少なりとも(?)合唱指揮者である、少なくとも合唱指揮に興味を持っているという、非常に稀有な環境なのです。
講習会は9日間に渡り、朝8時のウォーミングアップから夜21時半の稽古終了まで合唱漬けの時間を過ごします。
この講習会は、参加者全員が一堂に会して歌う「全体合唱」、3つのクラスに分かれての「セミナー」、5名のヴォイストレーナーによる「声楽レッスン」から成ります。「全体合唱」では、最初数日は講師による指導が行われ、その後は希望する受講生が合唱団の前に立ち、指揮法や稽古の仕方について講師からアドヴァイスを受けながら稽古が進んでいきます。
「セミナー」は初心者クラス、発展クラス、マスタークラスの3段階に分かれており、3名の講師が各クラスを担当します。私はスペインからの招聘講師であるJosep Vila i Casañas(ジュゼップ・ヴィラ・イ・カザーニャス)氏が受け持つマスタークラスを受講しました。私たちのクラスでは、各受講生が希望する曲を10分ほど合唱団相手に指導し、それに対してVila氏のアドヴァイスを受け、テクニックや楽曲解釈などを改善していくという流れで進んでいきました。受講生のレベルは様々なのですが、Vila氏はそれぞれの改善すべき点を非常に的確に指摘し、かつストレスを与えない穏やかな物言いで、受講生が落ち着いて自分の課題と向き合える環境を作っていました。Vila氏本人の合唱指導も、決して勢い任せではなく、常に静けさを大切にし、歌い手が自然と耳を使うようになる雰囲気を作っており、こんなプローベの在り方もあるのだと、とても新鮮な体験となりました。
最終日に行われるコンサートでは全体合唱と各セミナーの演奏がすべて受講生により指揮されるのですが、私は全体合唱でVila氏ご自身が作曲された MISSA “SANCTUS-BENEDICTUS”よりKyrieを指揮しました。2群合唱による大変美しい曲で、今回の講習会のプログラムの中では最難曲だったのですが、合唱団の集中力にも助けられて良い演奏ができ、Vila氏も非常に喜んで下さいました。この楽曲とVila氏との出会いは、この講習会で得られた大きな財産となりました。
最後の写真は左から順に、一緒に講習会に参加したグラーツ音大の同級生アグネス、Prinz氏、私、合唱指揮者の柳嶋くん、Vila氏です。