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コロナ禍での演奏会

8/26に開催した【vocalconsort initium ; 5th concert】そして9/2に開催した【#わからないフェス】ふたつの大きなイベントから2週間が経ち、いずれも関係者からコロナ感染の報告なく無事に終演することが出来ました。

結果的にコロナの感染者数がこの1年半で最も多い時期とイベントのなってしまい、世間からの賛否両論もあると思いますし、私自身も主宰者の一人として運営メンバーの仲間と共に非常に悩み苦しみながらの開催となりました。今後もまだまだ感染対策と向き合いながらの演奏会実施が求められる中で、誰かのお役に立つかはわかりませんが、今回私たちが行った対策、私が考えたことを書き残しておこうと思います。

 

1)演奏会実施の決断

7月以降、次第に感染者数が増えていき、演奏会の実現についても暗雲が立ち込めていくなかで、私たちはホールが使用できなくなるなどの状況にならない限り、極力開催する方向でいこうと考えていました。理由は様々ありますが、一番大きい理由は、今回文化庁から助成金をいただけることになっており、その助成金から謝礼をお渡しすることになっていた50名以上のアーティストの皆さんに、演奏会を実施することで満額の謝礼を渡したい、というものでした。ご存知の通り、この1年半で数え切れないほどの演奏会が中止になりました。フリーランスの音楽家は、数多くの演奏会に出演し、謝礼を頂くことで収入を得ています。ひとつひとつの謝礼は決して高額とは言えないことが多いですが、多くのプロジェクトを渡り歩くことで生活しているのです。それらの収入の多くが断たれる状況下で、経済的に苦しいことはもちろん、本来音楽家にとって大きな喜びであり、生きる意味でもある聴衆の前での演奏の機会もまた奪われ続けています。今回私たちが主宰した演奏会が中止となり、謝礼を払えなかったからと言って、出演アーティストが突然生活の糧を失うわけではありませんが、経済的、精神的に大きな打撃をあたえるだろうという危惧がありました。
また、特にvocalconsort initiumの演奏会はこの1年の間にすでに2回演奏会の延期の判断をしており、今度こそ!という強い気持ちがあったことも一つの要因であることは間違いありません。同時期に開かれていたオリンピックについても、それ自体が私たちの演奏会の是非に影響するものではなくとも、「オリンピックはやっているのに・・・」という気持ちが無かったと言えば嘘になります。

そんな中でも8月に入ってからの感染者数の増加はあまりに激しく、演奏会の実施は本番1週間前まで悩み続け、話し合いを重ね、私たちは感染のリスクをゼロにすることは出来ないけれど、1%でも減らす努力をしながら開催を目指そうと決断しました。

 

2)実際に行った感染対策

・不織布マスクの着用、消毒、換気、ソーシャルディスタンスを徹底してのリハーサル

これはすでにどこの団体も行っていると思いますが、リスクの高い合唱活動を行う上で、常時換気しながら歌える会場をお借りし、左右1m、前後2m以上の間隔を確保したうえで、マスクをしたままでのリハーサルを徹底しました。

・PCR検査と抗原検査の実施

これは当初は予定していなかったのですが、8月以降の状況の悪化を受けて急遽加えた対策です。
PCR検査は検査機関に出向く必要があり、また結果が出るまでに時間がかかることから、当初はリハーサルのたびに会場で抗原検査を一斉実施する対応を取りました。しかし情報を収集する中で、保有する菌が少ない無症状者や軽症状者に対する抗原検査の検査精度は高くないことがわかり、また実際に行った簡易キットによる検査で、一回目とその直後に行った二回目で違う結果が出るなど、抗原検査による結果だけを判断材料とすることに難しさを感じる事例もあり、急遽PCR検査の実施に舵を切り直しました。
無症状者を対象とした民間のPCR検査機関は都内だけでも数カ所あり、郵送による検査を実施しているところもあります。費用は2-3000円程度で翌日に結果がわかるところが多く、思っていたよりも負担が少なく検査を受けられることがわかりました。そのため、演奏会に出演するアーティストに対し、本番前1週間以内に最寄りの機関で検査を受けて結果を報告してもらい、その費用を運営費から補填する、という方法を取りました。
ただ現実的には、直前の方針転換となってしまったために、日程的にPCR検査を受けられない方もおり、その方々は本番当日もしくは前夜の抗原検査を実施することとしました。幸いPCR検査・抗原検査共に陽性の方はいませんでしたが、陽性の結果が出た場合にはその方は出演停止。指揮者やソリストに陽性が出た場合には演奏会中止の用意をしていました。

民間のPCR検査に関しても、病院で行うものに比べると精度にばらつきがあるということが言われています。またPCR検査の特性上、本番の数日前に検査を行うため、検査から本番までの間に感染するリスクがあるという問題もあります。今回私たちがとった対策は、そういったことを知ったうえで「感染拡大のリスクを1%でも下げる」ことを目的に行ったものとご理解ください。
もっと早く感染対策の強化にむけて情報収集と行動を始めていたなら、たとえば本番前日のPCR検査の実施を出演要件にする、というような選択肢もあったかもしれません。

いずれにせよ、この検査の実施については非常に頭を悩ませた点でもあり、また費用も数十万円かかっています。今回は助成金があったために実施できましたが、普段の私たちの運営予算では賄いきれないという問題点が残ります。

・本番のタイムスケジュールの徹底管理

vocalconsort initiumの演奏会は合唱団1団体のみの出演だったため、本番当日に気をつけたのは、楽屋などで密にならないこと、常時マスク着用、黙食、換気、消毒の徹底など、リハーサル時と基本的には同じ内容です。

しかし、#わからないフェスの方は、14組、50名以上のソロ・グループアーティストが出演するものだったため、いかにアーティスト同士の接触を減らすか、という点に苦心しました。
現在保健所は濃厚接触者の追跡を行っていませんが、過去には演奏会後にコロナ陽性者が発覚し、同じ楽屋を使用していた20名近くが濃厚接触者となり、自宅待機を余儀なくされるなどの事例もありました。
その為、アーティストごとに楽屋の使用時間、客席での待機時間、また座ってよい座席まで含めて非常に細かくタイムスケジュールを管理し、楽屋に同時に入室する人を運営で把握し、また待機場所として使用した座席は毎回消毒するなど、仮に感染者が後日発覚した場合に濃厚接触者を一人でも減らすための対策を取りました。
これは、スケジュールの作成から当日それを実現させるところまで、運営メンバーが最も時間と労力をかけたところです。

結果として、アーティスト同士の接触を減らすことには成功したように思います。問題点としては、アーティストのスケジュールや移動導線が非常に複雑になってしまったこと、待機に使用できる部屋が十分ではなかったために会場の外で時間を潰さなくてはならないような待ち時間が出来てしまったことなどがあります。またスタッフの休憩時間に一時的に楽屋が密になってしまうなど、人の動きを想定しきれなかった部分もありました。
今回は会場の楽屋4室と、リハ室、練習室を使用しており、通常の演奏会であれば充分といえる部屋数ですが、今回のような徹底したスケジュール管理を行うのであれば、会場の全ての練習室や会議室を終日抑えるくらいの部屋数が必要だということもわかりました。

アーティストの皆さんが大変協力的で、無事に1日を終えることができましたが、みなさんに非常に多くのご不便とご負担を強いることになってしまったし、私たち運営メンバーの負担も非常に大きかったというのが正直なところです。

当日のタイムスケジュール

私たちはこれまでにinitiumのプロジェクトだけで2回、演奏会の延期の決断をしてきています。それはあまりに辛く、こんな辛い決断は二度としたくないと思っていました。しかし今回の演奏会を実施するという決断はそれと同じか、それ以上に苦しいものでした。

主宰者として演奏会を実施するということは、出演者に感染リスクを負わせるということです。もちろん出演は出演者が自分の意志で決めることですし、参加を強要するわけではありません。しかし、集まる「場」がなければ、当然感染リスクは下がるのです。
今回は感染者を一人も出さずに終えられましたが、万一クラスターが発生し、その中の誰かが重症化したら…後遺症が残ったら…最悪のことがあったら…と考えない日はありませんでした。
誰も私のせいだとは言わないかもしれませんが、私自身は自分が演奏会をするという決断をしたせいだと、一生自分を責め続けたと思います。そして私がどれだけ自分を責めたところで、誰かの健康を害したことの責任など、決して取ることは出来ないのです。

しかしその一方で、出演者の多くは演奏会の実施を望んでいるという現実もありました。経済的理由、精神的理由、さまざまな理由はあると思いますが、それぞれが悩んだ上でリスクを取る覚悟を持って、出演を決めてくれていたのだと思います。それなのに、私が不安である、私が責任が取れない、という気持ちで演奏会を中止するのが正しいことなのか、わかりませんでした。

何度も書いていますが、どれだけ感染対策をとったとしてもリスクはゼロにはなりません。しかしそれは演奏会の場に限らず日常生活でも同じことです。リスクをゼロにするには、誰にも会わず、どこにも行かず、外部との接触を絶って、ただただ閉じこもっているしかない。しかしそれでは人は死んでしまいます。そして、食べ物さえあれば死ぬことはないかもしれませんが、楽しみや喜びがなければやはり人は生きていけません。私たち音楽家にとって、それは音楽です。感染リスクを下げることと、人として生き続けること、そのバランスをどう取るのか、その難しい選択を迫られ続けるのが今の時代なのかもしれません。

私は職場のストレスチェックで、綺麗な五角形の結果が出るほどストレス耐性が強い人間なのですが、それでも演奏会の前は、動悸、不眠、食欲不振、アトピーの悪化など、わかりやくすストレス障害が体に出ていました。
今回は運良く、演奏会を通じて感染が広がることはありませんでした。もちろん、運営としてできる限りの対策を取りましたし、アーティスト一人一人も普段以上に感染対策に気をつけて生活をしてくれていましたので、ただの「ラッキー」ではありません。でも、どれだけ対策をとっても感染リスクはあるのですから、やはり運が良かったと言うしかないのかもしれません。

今回の2つの演奏会を通して、こんな思いまでして、命までかけて、演奏会をやる意味はなんだろうと何度も考えました。正直音楽に正面から向き合う気持ちにすらなれない中で、こんなに辛いならやめてしまいたいとも思いました。
それでも本番を迎えて音楽の中に自分の身を置いたとき、「こんなに辛い思いをしてでもやるだけの価値がここにある」と心の底から感じました。だから私は、演奏会を行った決断を後悔はしていません。
それでももしまた同じ条件下で演奏会をやるかやらないか、という決断を迫られたら、私は「やらない」という選択肢を選ぶのではないかと思っています。

 

結局、結論がないような話ですが、これが私の考えていたことです。

もし今、演奏会などのイベントの実施について悩んでいる方がいれば、私の話が参考になるかはわかりませんが、どうか後悔のない判断をしていただければと思います。

 

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